金融工学を勉強する為のブログ

金融工学のお勉強結果を書いていきます。間違っていることもあるかもしれませんが、大目に見ていただけると助かります。

確率過程ミニマム01 正規分布する株価模型(1)

  

 なんでもそうだと思いますが、イメージがわかないとなかなか頭に入っていかないものです。数学の議論をああだこうだ書く前に、どういう系を模型化したいかを記載しようと思います。

 株価、僕の押しは任天堂(7974)*1ですが、こいつを数学的に扱うにはどうしたらいいかを考えます。

 まずは、株価の値動きをGoogleで実際に見て見ましょう。

 google 株 任天堂 - Google 検索

任天堂の株価の時系列データを見ることができると思います。タブを選ぶことにより、1日、5日、1ヶ月、1年、5年、最大と時間スケールを変えて値動きを確認することができると思います。このグラフに対して、注目したい点がふたつあります。

  1. 一日のグラフは5分間隔である
  2. ギザギザのグラフになっている

 1つ目、時間間隔5分は、googleさんの決めの問題のようです。株価は取引によって変動し、実際には、もっと細かい間隔で取引されています! ただ、いくら細かいといっても下限があると推定されます。そこで、ひとまず、離散時間における時系列データを想定して理論を考えることにしましょう。

 格好つけた言い方をすると、こんな感じでしょうか?

今日の時刻t_0と今日の株価S_0に対して、未来のN個の時刻t_i, (i=1,2,\cdots N)における株価 S_iについて模型化する』

 離散時間は、計算がかえってめんどくさくなる事がしばしばあります。そこで、離散時間で模型化し、その後、時間を連続化して計算の利便化を図るということを考えます*2

  2つ目、ギザギザは厄介な性質です! 滑らかなグラフであるなら、傾向を把握して次にどうなるかを予測することができますが、ギザギザであると、次にどっちにいくか、まったく予想がつきません。気取った言い方をすると、

\begin{align} S_i &= f(t_i) \end{align}

となるような関数 f(\cdot)を特定することは無理そうです。これができれば、さぞかし大金持ちになれる魅力的な方針ですが、あきらめることにしましょう。

 違ったアプローチとして、今日の時刻t_0と今日の株価S_0に対して、未来の時刻t_iにおける株価 S_iの確率分布、

\begin{align} \rho( (t_i,S_i);(t_0,S_0) ) \end{align}

を求めるという方針が考えられます。この方針も、もしかしたら大金持ちになれるかもしれない魅力的な方針ですね。この方向で議論を進めていくことにします。

  さて、模型を考える際には、単純なものから出発して、順次複雑化していくのが定跡です。少なくとも特徴ぐらいはつかんでいるけど、シンプルな玩具模型を考えて見ましょう。

 まず、考えている時間間隔は等間隔であるとしましょう。すなわち、t_{i+1}-t_i:=\varDelta t_iと定義し、\varDelta t_iiによらず一定( = \varDelta t)であるとします。さらに、時刻 t_iに株価が S_iであった時、時刻 t_{i+1}に株価が S_{i+1}から S_{i+1}+\mathrm{d}S_{i+1}にある確率を、

\begin{align} \rho( \varDelta t_i, \varDelta S_i )\mathrm{d}S_{i+1} :=\frac{\mathrm{d}S_{i+1}}{\sqrt{2\pi\varDelta t}}\mathrm{exp}\left(-\frac{\varDelta S_i^2}{2\varDelta t }\right)\end{align}

(ただし、

\begin{align} \varDelta t_i &:= t_{i+1}-t_i\\ \varDelta x_i &:= x_{i+1}-x_i\end{align}

とする) で与えられる、という模型を考えることにしましょう。

  最後に与えられた式は、分散が \varDelta tで、平均が S_iで与えられる正規分布を示しています。したがって、 S_iから動かない確率が一番大きい、『動きのない』模型であることがわかります。また、正規分布であるので、きっと、解析が簡単であることが期待されます*3

 

 さて、我々の一応の目標は、確率分布、

\begin{align} \rho( (t_i,S_i);(t_0,S_0) ) \end{align}

を計算することにありました。模型のこれだけの情報から、上記確率密度は計算するにはどうしたらよいでしょうか? 日本語で言うなら、 S_0から出発して、 S_1を通過し、 S_2を通過し、・・・ S_Nにたどり着く確率(密度)を考えて、

  S_1, S_2,\cdots,S_{N-1}のすべての組み合わせについて足し合わせれば計算できるように思われます。数式に起こすと、

\begin{align}\rho( (t_i,S_i);(t_0,S_0) )=\int^\infty_{-\infty}\mathrm{d}S_1\int^\infty_{-\infty}\mathrm{d}S_2\cdots\int^\infty_{-\infty}\mathrm{d}S_{N-1}\rho( \varDelta t_1, \varDelta S_1 )\rho( \varDelta t_2, \varDelta S_2)\cdots\rho( \varDelta t_{N-1}, \varDelta S_{N-1} )\end{align}

と、笑いたくなるような式が出てきます。げんなりしますね。でも、上式の一部分

 \begin{align}\int^\infty_{-\infty}\mathrm{d}S_i\rho( \varDelta t_i, \varDelta S_i)\rho( \varDelta t_{i-1}, \varDelta S_{i-1} )=\int^\infty_{-\infty}\frac{\mathrm{d}S_i}{\sqrt{2\pi\varDelta t}\sqrt{2\pi\varDelta t}}\mathrm{exp}\left(-\frac{\varDelta S_i^2}{2\varDelta t }-\frac{\varDelta S_{i-1}^2}{2\varDelta t }\right)\end{align}

なら、まだ手が届く範囲ではないかと考えています。指数関数の肩をS_iで平方完成すると、

\begin{align}指数関数の肩&=-\frac{\varDelta S_i^2}{2\varDelta t }-\frac{\varDelta S_{i-1}^2}{2\varDelta t}\\&=-\frac{(S_{i+1}-S_i)^2+(S_i-S_{i-1})^2}{2\varDelta t }\\&=-\frac{2S_i^2-2S_i S_{i+1}-2S_i S_{i-1}+S_{i+1}^2+S_{i-1}^2}{2\varDelta t } \\&=-\frac{2\left[S_i-\left(\frac{S_{i+1}+S_{i-1}}{2}\right)\right]^2- \frac{(S_{i+1}+S_{i-1})^2}{2}+S_{i+1}^2+S_{i-1}^2}{2\varDelta t }\\&=-\frac{2\left[S_i-\left(\frac{S_{i+1}+S_{i-1}}{2}\right)\right]^2+ \frac{-S_{i+1}^2-2S_{i+1}S_{i-1}-S_{i-1}^2+2S_{i+1}^2+2S_{i-1}^2}{2}}{2\varDelta t }\\&=-\frac{\left[S_i-\left(\frac{S_{i+1}+S_{i-1}}{2}\right)\right]^2}{\varDelta t }- \frac{(S_{i+1}-S_{i-1})^2}{4\varDelta t } \end{align}

より、

\begin{align} \int^\infty_{-\infty}\mathrm{d}S_i\rho( \varDelta t_i, \varDelta S_i)\rho( \varDelta t_{i-1}, \varDelta S_{i-1} )&=\int^\infty_{-\infty}\frac{\mathrm{d}S_i}{\sqrt{2\pi\varDelta t}\sqrt{2\pi\varDelta t}}\mathrm{exp}\left(-\frac{\left[S_i-\left(\frac{S_{i+1}+S_{i-1}}{2}\right)\right]^2}{\varDelta t }- \frac{(S_{i+1}-S_{i-1})^2}{4\varDelta t }\right)\\&=\frac{\sqrt{\pi\varDelta t}}{\sqrt{2\pi\varDelta t}\sqrt{2\pi\varDelta t}}\mathrm{exp}\left( -\frac{(S_{i+1}-S_{i-1})^2}{4\varDelta t } \right)\\&=\frac{1}{\sqrt{4\pi\varDelta t}}\mathrm{exp}\left( -\frac{(S_{i+1}-S_{i-1})^2}{4\varDelta t } \right)\\&=\rho( \varDelta t_i+\varDelta t_{i-1}, \varDelta S_i+\varDelta S_{i-1})\end{align}

 が得られます*4。時刻 t_iiが2のべき乗である場合、2個ずつ組み合わせて上の公式を適用し、さらに2個ずつ組み合わせて公式を適用させる・・・ということを繰り返すと、

 \begin{align}\rho( (t_i,S_i);(t_0,S_0) )=\rho( t_i-t_0, S_i-S_0)\end{align}

 が得られます。

 上記では、限定的な時刻 t_iに関して、株価の確率分布を計算することに計算しました。次回は、すべての t_iに関して、株価の確率分布を計算したいと思います。

*1:仕事で株関係の検証をするときは、意図的に任天堂を選んでます(笑)

*2:価格の値動きの幅にも当然下限がありますが、そこは無視します。確率密度が普通の確率とどう結びついているかを議論するのには有益ですが、そこを解説した確率論の本は沢山あるので、そっちを参照して下さい

*3:その期待は、すぐに破られてしまいます・・・

*4:実は、この公式は、時間の分割が一定であるという枷をはずしても成り立つのですが、その話は次の回にまわします